千代の富士の死因の核心に迫る上で、息を引き取る直前となった2016年7月の名古屋場所での様子を抜きに語ることはできない。当時、九重親方として審判部副部長を務めていた彼は、激痛と衰弱に耐えながら連日役員室に姿を見せていた。頬は明らかにこけ、体重は全盛期から何十キロも落ちていたが、弟子や報道陣の前で背筋を丸めることは一度たりともなかった。
当時の関係者は声を揃えて証言する。「親方は『少し夏バテしただけだ』と笑って誤魔化していた。しかし、椅子から立ち上がる際、机に体重をかけなければ立てないほど限界を迎えていた」と。痛みに顔を歪めることすら拒み、気力だけで名古屋場所を全うした。
東京へ戻った直後、容態が急変して都内の病院へ緊急入院。最期の瞬間まで意識を保ち、駆けつけた家族や弟子の声をじっと聞き届けていたという。2016年7月31日午後、家族に見守られながら静かに息を引き取った。享年61。死の直前まで「相撲界の発展」と「弟子の成長」を案じ続けた、壮絶なラストメッセージなき旅立ちだった。