本作の相関図は、単なる恋愛ドラマの枠組みを遥かに超越している。物語の中心にあるのは、現実世界で自己否定に苛まれる越前さん(麻生久美子)と、彼女の日記帳(漫画ノート)から飛び出した「はらちゃん」(長瀬智也)の奇妙な主従関係であり、純愛だ。
二人の周囲を取り巻く顔ぶれも凄まじい。越前さんが勤めるかまぼこ工場のパート主任であり、実はかつて漫画を描いていた「先代の神様」でもある矢野清美を薬師丸ひろ子が演じ、その息子でどこか達観した少年・あっくん(矢野清)を菅田将暉が演じた。さらに、漫画の世界の住人としてユキ姉(奥貫薫)、悪魔(甲本雅裕)、ユキ姉の弟(丸山隆平)が脇を固め、現実世界のパート仲間には白石加代子、工場長には光石研が名を連ねる。
いま振り返れば、現代の日本映画界・演劇界を背負って立つ主役級の表現者が、ひとつの港町に集結していたことになる。長瀬智也の圧倒的なスター性と野性味、麻生久美子の繊細極まる陰影、菅田将暉の爆発前夜の鋭利な輝き、そして薬師丸ひろ子の包容力。このアンサンブルが二度と再現不可能な引力を生み出していた。