青木ヶ原樹海にまつわる最大の誤解が、青木ヶ原樹海の心霊や噂の真相として語られる「磁石が狂って脱出不能になる」という説です。
地質学的な見地から言えば、富士山の溶岩には磁鉄鉱が多く含まれているため、方位磁石を地面に直接置いた場合に限り、針がわずかに狂う現象は起こり得ます。しかし、通常の歩行姿勢(胸の高さ)でコンパスを持つ限り、方角を完全に見失うような異常な磁場は発生しません。スマートフォンのGPSや電波も、主要な散策路周辺であれば十分に機能します。
それでも遭難者が後を絶たない樹海で迷う本当の理由は、極めて物理的です。
- 景観の均一性:約30平方キロメートルにわたって同じような樹木と溶岩が続き、目印となる山や太陽が木々の隙間から見えない。
- 音の遮断:地面に堆積した多孔質の溶岩が音を吸収するため、近くを走る国道の車の走行音が届きにくい。
- 足元の危険:踏み固められた遊歩道を一歩外れると、苔に覆われた落とし穴のような亀裂が無数に存在し、怪我で身動きが取れなくなる。
オカルト的な呪いではなく、原生林としての地形的トラップこそが、方向感覚を奪う真の原因です。