人形館と聞いて、新本格ミステリーの旗手・綾辻行人氏が1989年に発表した小説『人形館の殺人』(館シリーズ第4作)を真っ先に想起する読者も少なくないはずです。
本作は、亡き父から奇妙な「人形館」を相続した主人公・飛流間弦矢の周囲で起こる連続不審死を描いた傑作サスペンスです。館内には首や手足が欠けた無気味なマネキン人形が立ち並び、読者を終始不穏な緊張感へと引きずり込みます。
本作が数あるミステリーの中で今なお鋭く評価されている核心(ネタバレ考察の核心)は、建築的な大仕掛けを用いた従来の「館シリーズ」とは一線を画し、「信頼できない語り手」を用いた究極の心理的密室劇である点にあります。主人公自身の精神の揺らぎ、解離した自己認識、そして彼を見つめ続ける無言の人形たちが生み出す閉塞感――。フィクションが描いたこの濃密なサスペンスこそが、現実の人形館に対する「何かが起こりそうな薄気味悪さ」という集合的無意識を強烈に補強したと言えます。