走り湯の歴史を語る上で欠かせないのが、背後の山上に鎮座する伊豆山神社との切っても切れない宗教的・地質的連動性です。社伝によれば、今から約1300年前の養老4年(720年)、修験道の開祖とされる役小角(えんのおづぬ)がこの地で修行中に発見したと伝えられています。
伊豆山神社において、走り湯は単なる温泉ではなく「神の湯(神湯)」として神格化されてきました。その象徴が神社に伝わる赤白二龍(せきびゃくにりゅう)の伝承です。伊豆山の地下には赤と白の2頭の龍が交差して潜んでおり、赤龍は「火(熱)」を、白龍は「水」を司り、両者が合わさることで温泉を生み出していると信じられてきました。この赤白二龍は、伊豆山神社の強運守護や縁結びのシンボルとして現在も崇敬を集めています。
かつての参拝者は、海岸にある走り湯で身を清める「潮湯治」や禊をおこなった後、山上の本殿へと登拝していきました。現在も走り湯の脇からは、伊豆山神社本宮へと続く急峻な石段が伸びており、全837段(走り湯から本殿まで)に及ぶ高低差は、山岳信仰と温泉信仰が融合した空間構造を今に伝えています。