医療従事者からの説明だけでは窺い知れないのが、日々の暮らしや表現現場における「生々しいトラブルと適応のプロセス」です。当事者の手記やブログの言説を検証すると、共通して立ちはだかる3つのハードルが浮かび上がります。
第1のハードルは、「装具からの漏れに対する強迫的な不安」です。桑野信義さんはブログの中で、外出先や睡眠中にパウチの粘着テープが剥がれ、排泄物が漏れ出てしまった際の絶望感を飾らない言葉で吐露しています。特にステージに立つ演者にとって、本番中のアクシデントは取り返しのつかない事態になりかねません。そのため、本番数時間前から固形物の摂取を控えたり、ガス抜きフィルター付きの最新パウチを採用したりといった、緻密な自己管理が不可欠となります。
第2のハードルは、「食生活とガス(腹部膨満)のコントロール」です。大腸の一部を切除したオストメイトは、便の性状が軟便や泥状になりやすく、匂いやガスの発生に細心の注意を払います。炭酸飲料や豆類、イモ類などガスが発生しやすい食品を仕事前には避けるといった工夫は、多くの当事者が日課として語るポイントです。
第3のハードルは、「閉鎖手術後の排便障害(LARS:低位前方切除後症候群)」です。一時的ストーマを閉鎖して「元通りの身体に戻った」と周囲は安心しがちですが、実際には直腸の貯留機能が低下しているため、1日に何十回もトイレに駆け込む頻便や便失禁に長期間悩まされるケースが多発します。桑野さんも閉鎖手術後、仕事先への移動ルート上にあるトイレをすべて把握し、紙おむつやパッドを手放せないリハビリ期間があったことを告白しています。こうした生の声が世に出ることで、当事者コミュニティからは「自分だけではなかったと救われた」という反響が数多く寄せられています。