『沙石集』は、鎌倉中期の僧侶である無住道曉(むじゅうどうぎょう / 無住一円)によって、弘安6年(1283年)に成立した全10巻からなる仏教説話集です。無住は臨済宗の禅僧でありながら、天台宗や真言宗、浄土宗など幅広い仏教宗派を学び、民衆への教化に情熱を注ぎました。
書名にある「沙石」とは、価値のない砂や小石のことです。無住は序文において「無価値に見える砂利のような世俗の笑い話や世間話を集め、その中から黄金のような仏法の真理を掬い取る」という執筆動機を明記しています。難解な仏教教理を振りかざすのではなく、市井の人々が思わずクスッと笑ったり身につまされたりする身近なエピソードを通じて、仏の慈悲や因果応報の理を説こうと試みたのです。
『今昔物語集』や『宇治拾遺物語』といった先行する説話集との決定的な違いは、「各説話の末尾に無住自身の詳細な批評・解説(教訓)が付されている点」にあります。単なる面白話のコレクションにとどまらず、説法のテキスト(説教の種本)として極めて実用的に構成されているのが最大の特徴です。