奈良公園周辺に生息する約1,300頭余りの鹿は、国の天然記念物に指定されている野生動物です。普段はおとなしく観光客から鹿せんべいをもらっている姿が印象的ですが、秋を迎えると状況は一変します。毎年9月から11月にかけて雄鹿は「発情期」に入り、テストステロン(男性ホルモン)の分泌が急増することで気性が極めて荒くなります。
鋭く尖った立派な角を持つ雄鹿同士が縄張りや雌鹿を巡って激しく衝突すると、角が相手の体に深く突き刺さり、内臓破裂などの致命傷を負って命を落とす事例が後を絶ちません。さらに、市街地や春日大社の参道で観光客や近隣住民を威嚇・突進し、大怪我を負わせる危険性が極めて高くなります。
奈良の鹿愛護会の記録によると、角切りは単なる観光イベントや見世物ではなく、「鹿同士の命を守り、人間との平和な共生を維持するための不可欠な安全措置」として制度化された背景があります。鋭利な先端を切り落とすことで、万が一の接触時にも重大な事故を未然に防ぐ役割を果たしています。