室伏氏のトレーニング方法において、最も独創的かつ画期的なのが「赤ちゃんトレーニング(発育発達運動)」です。ウエイトトレーニングによる高重量の反復練習のみを続けていた時期、筋肉の緊張や関節のアンバランスによる怪我に直面した室伏氏は、人間が本来持っている自然な身体の連動性を取り戻す研究に着手しました。
人間は乳児期において、自重を使いながら寝返りを打ち、四つ這いでハイハイし、骨盤と肩甲骨を協調させながら立ち上がります。この過程で自然にインナーマッスル(体幹深層筋)が強化され、無理のない連動パターンが脳神経に刷り込まれていきます。室伏氏はこの発育発達のメカニズムを再構築し、床を這う動作や不規則な揺れを取り入れたトレーニングを確立しました。
さらに氏が考案したのが、新聞紙やハンマーの柄、バランスボールなどを活用した繊細な体幹筋トレです。例えば、「新聞紙を片手の握力だけで素早く丸め込む運動」や「水を入れたポリタンクを不安定に保持するエクササイズ」など、筋肉を固定化させず、常に変化する重心に神経系を即座に適応させるアプローチを重視しました。これこそが、ウエイトルームの中だけではなく実戦のダイナミックな動きの中で生きる「真の体幹力」を生み出した原動力です。