店名である「来夏世(くなつゆ)」とは、八重山の古謡や祈りの言葉に由来し、「来年の夏、豊かな実り(豊作)を迎える世の中」を意味する島の大切な言葉です。その名が掲げられた暖簾をくぐると、木の温もりを活かした古民家風の空間が広がり、どこか懐かしい出汁の香りが鼻腔をくすぐります。
午前11時の開店を迎える頃には、店舗前のエントランスから敷地外の小道にかけて20〜30人規模の行列ができる光景は日常茶飯事です。来店者の約半数はレンタカーで訪れる旅行者ですが、残り半数は日々の生活に根ざした地元リピーターである点が、単なる一過性の観光ブームではない実力を物語っています。
一般的な沖縄本島の沖縄そばが、白濁した豚骨スープや力強い鰹節の酸味を前面に出すのに対し、「来夏世」の八重山そばは驚くほど澄み切った清湯(チンタン)スープが最大の特徴です。豚骨と鶏ガラを徹底して弱火で丁寧にアクを取りながら煮出し、昆布と鰹の旨味を重ね合わせたスープは、最後の一滴まで飲み干しても全く胃もたれしない優しさと深みを持っています。
合わせる麺は、八重山そば特有の縮れのない丸断面のストレート麺。スープの繊細な風味を邪魔せず、ツルツルとした喉越しの良さが際立ちます。トッピングも豪快な三枚肉の塊ではなく、甘辛く煮含められた豚肉と八重山かまぼこを細切りにして盛り付ける伝統スタイルを踏襲。計算し尽くされたバランスの良さこそが、多くの人を虜にする最大の理由です。