ショスタコーヴィチ第9番の真実|独裁者を激怒させた名曲の謎と名盤の総合ガイドを解説します。専門的な知識が満載です。

本作の真価を味わう上で外せないのが、木管楽器、とりわけファゴットの扱いです。ショスタコーヴィチはファゴットという楽器が持つ「諧謔性(おかしみ)」と「深みのある悲哀」という二面性を見事に使い分けています。

第2楽章のファゴットソロは、冷え切った冬の荒野に一人佇むような孤独感を醸し出します。また、第4楽章の重々しいトロンボーンとチューバによる「国家権力の威嚇」の直後、ファゴットが独り静かに奏でる長大なモノローグは、言葉を奪われた個人の叫びそのものです。

第5楽章の冒頭でそのファゴットが突如として剽軽なメロディを吹き始めるとき、聴き手は胸を締め付けられるような違和感を覚えます。「笑わなければ生きていけない」という過酷な現実を、管弦楽の色彩を通じて鮮やかに描き出しているのです。