人間は合理的な生き物であるという神話は、とうの昔に崩壊している。この冷徹な事実を世界に知らしめたのが、ノーベル経済学賞を受賞した心理学者ダニエル・カーネマンだ。彼が提唱した「システム1(直感・ファスト思考)」と「システム2(論理・スロー思考)」の二重プロセス理論は、私たちがなぜ偏見に満ちた判断を下してしまうのかを明快に説明する。
脳は総消費エネルギーの約20%を占める大食漢であり、日常のあらゆる事象に深く思考を巡らせる余裕はない。そこでシステム1が即座にラベルを貼り、短絡的な推論で結論を急ぐ。認知心理学の研究が示す通り、この省エネメカニズムこそが認知の歪みを生み出す元凶だ。日本認知科学会のシンポジウムでも指摘されているように、過去の成功体験が強固であればあるほど、脳はそのパターンを絶対視し、矛盾する新たな証拠を無意識のうちに排除してしまう。