冷たい風が吹き抜ける夕暮れの有名撮影ポイント。数時間前から三脚を立てて待機していた数十人の前に、東日本旅客鉄道(JR東日本)が運行するカシオペア紀行(臨時列車)の優美な車体が姿を現した瞬間、現場の空気は異様な熱気から一転して罵声の渦へと変わった。
「どけ!」「おい、被ってんだよ!」「ライト消せ!」
ファインダーの視界を遮られた撮影者から放たれる生々しい叫び声。線路脇のフェンスによじ登る者、警報機が鳴り響く踏切の中に三脚をねじ込む者。決定的瞬間を逃すまいとする焦燥感が、現場の理性を完全に麻痺させていく。駆けつけたJR職員や警備員の制止の声は、シャッター音の連打と罵声にかき消された。
現場に居合わせた一般の鉄道ファンは、肩を落としながらこう呟いた。「昔は互いに譲り合って『いい写真撮れましたか』と声を掛け合っていた。いまここにいる一部の人たちは、写真を撮るのではなく、他者を威圧してポジションを奪うこと自体に憑りつかれているように見えます」