「タバコを吸わないのになぜ?」という最大の疑問に対する科学の答えは、がんが発生する「組織型」と「遺伝子」の違いにあります。肺がんには大きく分けて「扁平上皮がん」「小細胞がん」「腺がん」「大細胞がん」というタイプが存在しますが、ヘビースモーカーに好発するのは気管支の太い部分にできる扁平上皮がんや小細胞がんです。これに対し、非喫煙者や女性に多い肺腺がんは、肺の奥深くにある末梢の肺胞に発生するという決定的な特徴を持っています。
日本肺癌学会や国立がん研究センターの最新知見によると、非喫煙者の発症において極めて中心的な役割を果たしているのがEGFR遺伝子変異です。EGFR(上皮成長因子受容体)は、本来は細胞の増殖を適切に制御するためのスイッチですが、何らかの偶発的な刺激や環境要因によってこの遺伝子に異常が生じると、スイッチが「常時オン」の状態に固定されてしまいます。その結果、タバコの煙による発がん性物質(タールなど)に直接曝露されていなくても、細胞が無秩序に自己増殖を繰り返し、悪性腫瘍を形成してしまうのです。
特筆すべきは、この変異がアジア人の非喫煙女性において突出して高頻度(約50〜60%)で検出される点です。欧米白人の喫煙者におけるEGFR変異率が10〜15%程度にとどまる事実と比較しても、東アジア特有の遺伝的感受性や女性ホルモン(エストロゲン)の関与が強く示唆されており、非喫煙者の肺がん原因は生活習慣の乱れではなく、分子レベルの偶発的エラーである事実が明白になっています。