数百年の歴史を背負う伝統のタイトル戦には、独特の魔物が棲みついている。二日制の長丁場で争われる名人戦や竜王戦の対局室は、数分間の沈黙がまるで数時間にも感じられる異様な空間だ。
組織としての改革を進める日本将棋連盟では、羽生善治会長のもとで伝統の継承とデジタル化の両立が進む。一方、日本棋院もグローバル展開と若手育成に舵を切り、盤上をめぐるエコシステムは大きく塗り替えられた。だが、格式ある舞台の熱量だけは変わらない。封じ手の一枚に込められた深遠な罠、翌朝の開封とともに火花を散らす戦局。何十時間も正座を崩さず、極限まで脳を酷使した棋士たちの憔悴した横顔には、神仏に祈る求道者のような凄みが宿る。