多くの視聴者が疑問を抱くのが、「命がけで病院まで行きながら、なぜメイとサツキはお母さんに直接とうもろこしを手渡さなかったのか」という点です。ネコバスに乗って七国山病院に到着した姉妹は、病室のすぐ外にある大きな松の木の上から、部屋の中の様子を静かに見守る選択をしました。
病室を覗くと、入院が延期になって落ち込んでいると思われたお母さんが、お父さんと穏やかに談笑しながら笑い合っていました。その元気そうな姿を目にした瞬間、姉妹の胸を占めていた強い不安や緊張は一気に氷解します。宮崎駿監督の絵コンテや演出ノートからも読み取れる通り、2人は「お母さんが笑っている姿を見て心から安心した」ため、無理に病室へ押し入って会話を遮る必要を感じなかったのです。
さらに、サツキとメイにとってこの行動は、母親の病気に対する恐れを乗り越え、親への一方的な依存から一歩踏み出した「心理的な自立の第一歩」を意味しています。大切なとうもろこしを窓辺にそっと残して立ち去る行為は、幼い姉妹が親を信じ、自分たちの日常へと戻っていくための美しい儀式でもありました。