そもそも、なぜ従来のハムには発色剤が使われ続けてきたのか。主目的は、食肉特有の鮮やかな赤色を保つこと、そして特有の風味(塩せきフレーバー)を生み出すことにある。だが、それ以上に食品衛生上の決定的な理由は「ボツリヌス菌」の増殖抑制だ。土壌などに存在するボツリヌス菌は強力な毒素を生み出す偏性嫌気性菌であり、かつて加工肉における食中毒対策の要として亜硝酸ナトリウムが重宝されてきた歴史がある。
風向きが大きく変わったのは、発がん性への懸念が高まってからだ。亜硝酸塩が肉に含まれるアミン類と胃の中で結合すると、ニトロソアミン類という強力な発がん性物質が生成される可能性が指摘されている。世界保健機関(WHO)の外部組織である国際がん研究機関(IARC)は、加工肉を「ヒトに対して発がん性がある」とされる「グループ1」に分類し、大腸がんなどの発症リスクとの関連を警告した。
もちろん、厚生労働省が定める食品添加物の使用基準は、日常的な摂取量において健康被害が生じないよう厳格に管理されている。それでも「微量であっても長期的に摂取し続けるリスクを避けたい」という消費者の防衛意識が、発色剤不使用を求める巨大なうねりを生み出したのは必然だった。