日本の通貨史において、女性の顔が紙幣に印刷された出来事は大きな歴史的転換点だった。2004年に五千円札の肖像として決定した樋口一葉のニュースは記憶に新しいが、当時の日本銀行や政府内部での選定プロセスにおいて、最後まで有力候補として名前が挙がっていたのが与謝野晶子である。近代日本文学を代表する女性二人を巡るこの議論は、単なる人気の比較にとどまらない深みを持っていた。
最終的に樋口一葉に軍配が上がった背景には、肖像画の精緻さや偽造防止技術上の観点、さらには作品群が持つ普遍的な叙情性が挙げられる。しかし、晶子が展開した社会運動や力強い詩作の精神は、肖像候補としての議論を大いに活気づけた。日本経済の象徴である紙幣という「札」に誰の遺志を映し出すか。その選考舞台裏で晶子の存在が大きく浮上した事実は、彼女の功績が持つ社会的なインパクトを物語っている。