なぜ薬師丸ひろ子の歌声は、40年以上の歳月を経てもなお色あせず、むしろ評価を高めているのでしょうか。その理由を分析すると、天賦の美声に甘んじない高度な技術と、女優としての身体表現が深く結びついていることが分かります。
第一に挙げられるのが、声楽(ベルカント唱法)に裏打ちされたピッチの正確性と呼吸法です。彼女の発声は、過度なビブラートや癖のあるしゃくり上げに頼らず、息のスピードと口腔内の共鳴腔を巧みにコントロールしています。地声からファルセット(裏声)への移行が極めて滑らかで、母音の響きが常にクリアに保たれるため、歌詞の一言ひとことが聴き手の鼓膜へ直接浸透していくような錯覚を覚えます。
第二に、役柄の人生を背負いながら歌う「語り部」としての資質です。一般的なポピュラー歌手が自己のパーソナリティを前面に押し出すのに対し、彼女は楽曲の中に存在する主人公の背景や切なさを精密に演じ分けます。感情をむやみに爆発させるのではなく、抑制された佇まいの中に深い哀愁を宿らせるその表現手法は、映画女優として培った感性の賜物と言えます。