各種健康診断や人間ドックで徹底される「絶食制限」には、明確な生理学的理由が存在します。臨床検査における血液の判定基準は、日本人間ドック・予防医療学会や日本臨床検査医学会などの標準ガイドラインに基づき、原則として10時間以上の絶食を経た「早朝空腹時」の数値をベースに構築されているためです。
採血前の食事制限において、もっとも大きな影響を受けるのが「糖代謝」と「脂質代謝」の指標です。通常、食事に含まれる炭水化物はブドウ糖に分解されて血中に取り込まれ、食後30分から1時間程度で血糖値がピークに達します。空腹時であれば基準値である110mg/dL未満に収まる人でも、直前に炭水化物を摂取していれば140mg/dL以上へ容易に跳ね上がり、本来は健康であるにもかかわらず糖尿病の疑い(要精密検査判定)が下されてしまいます。
さらに顕著なのが中性脂肪(トリグリセライド)の変動です。食事に含まれる脂質は小腸で吸収された後、「カイロミクロン」と呼ばれる巨大なリポ蛋白粒子となって血液中へ流れ出ます。脂っこい食事をとった後は中性脂肪値が通常時の2倍から3倍以上に急上昇し、採血した血液の上清(血清)が白く濁る「乳び(にゅうび)」という現象を引き起こします。血清が白濁すると、光を当てて吸光度を測る生化学自動分析装置の測定系が狂い、肝機能(AST/ALT)や電解質など、脂質以外の項目まで正確に測定できなくなる二次被害が発生します。