岩手の方言を理解する鍵は、「南部弁エリア(内陸北部)」「伊達藩エリア(内陸南部)」「三陸沿岸部(気仙弁など)」の3つに分解して観察することにある。日常の何気ないひと言にも、それぞれの風土が宿る。
まず盛岡周辺の南部弁では、「おもさげなござんす(申し訳ありません)」や「おでんせ(いらっしゃい)」といった、礼節と慎ましさを感じさせる独特の敬語表現が息づく。語尾に「〜してけろ(〜してください)」と添える柔らかい響きが特徴的だ。
対して県南の内陸部では、「〜だっちゃ(〜だよ)」や「いきなり(とても・すごく)」というフレーズが日常を支配する。「いきなり寒い」と言えば、突然寒くなったのではなく「ものすごく寒い」という意味になる。他県民が最も混乱するポイントの一つだ。
さらに異彩を放つのが、大船渡や陸前高田を中心とする沿岸南部の「気仙弁」である。母音の交替や独特の助詞使い、鼻濁音の頻出など、その際立った個性はかつて独立した言語体系として研究対象になったほどだ。語源を辿れば中世の古語がそのまま化石のように残っていたり、荒海と向き合う漁師たちの間で磨かれた鋭い短縮形が存在したりと、驚くべき多様性を見せている。