「なぜ現役の皇族が直接、伊勢神宮の祭主を務めないのか」という疑問を抱く方は少なくありません。その根本的な理由は、日本国憲法第20条(信教の自由・政教分離)および第89条(公金の使途制限)にあります。
戦前の大日本帝国憲法下では、伊勢神宮は「国家の宗廟」として公の管理下にあり、現役の皇族親王が祭主を務めることが法的に可能でした。しかし、戦後の現行憲法下において、神宮は一宗教法人(民間宗教団体)となりました。天皇や皇族は憲法上の公人としての性質を色濃く帯びているため、現役の皇族が特定の宗教法人の神職(役員)に直接就任することは、厳格な政教分離の観点から違憲の疑いを免れません。
また、皇室の制度を定めた皇室典範の中にも、「伊勢神宮祭主」に関する規定は一切存在しません。宮内庁の公的職務ではなく、宗教法人神宮の内部規則に基づく委嘱事項だからです。
だからこそ、戦後の歴代祭主はすべて「臣籍降下(結婚)によって民間の籍に入られた元皇族女性」が選ばれてきました。戸籍を持ち、一般国民となった元内親王であれば、一私人としての信教の自由のもと、宗教法人の神職に就くことに憲法上の法的主体性の瑕疵が生じないためです。現在内廷皇族として公務と日赤の社業に励まれている愛子さまが、現役のまま祭主になることは法体系上あり得ません。