伊坂幸太郎作品の代名詞とも言えるのが、伏線回収の緻密さと計算し尽くされた構成力です。何気ない登場人物の癖、街角で見かけた奇妙な看板、取るに足らない世間話のワンフレーズ――序盤に散りばめられた些細な違和感が、終盤に向けて加速度的に収束していくカタルシスは、他の追随を許しません。
著者はかつて文芸誌のロングインタビューにおいて、「読者がページをめくる手を止められなくなる瞬間をどう設計するか、パズルの最後のピースがはまる感覚を常に意識している」という趣旨の創作哲学を語っています。この言葉通り、伊坂作品のトリックは単なる「犯人当て」にとどまりません。登場人物たちの運命が交錯し、絶望的な包囲網をユーモアと勇気で突破していく人間ドラマそのものが、最大の仕掛けとして機能しています。
善悪が単純に二分できない重厚なテーマを扱いながらも、文体は徹底して軽やかです。シリアスな暴力や不条理が描かれる場面でも、独特のリズムを持つ会話劇が差し挟まれることで、読者に息苦しさを感じさせない絶妙なバランスが保たれています。