ファンの間で絶大な支持を集め、海外市場でも大ヒットを記録しているのが、裏社会の殺し屋たちを主役に据えた通称「殺し屋シリーズ」です。各巻ごとに主人公やトーンは異なりますが、同一の時間軸と都市空間を共有しており、殺し屋シリーズの読む順番は刊行順を守ることが鉄則となります。
シリーズの正しい読書順序は以下の通りです。
- 『グラスホッパー』(2004年)
- 『マリアビートル』(2010年)
- 『AX アックス』(2017年)
- 『777 トリプルセブン』(2023年)
物語の起点となる『グラスホッパー』では、元教師の鈴木が妻をひき逃げした犯人への復讐のために裏社会のフロイライン社へ潜入します。そこで巻き込まれる、自殺専門の殺し屋「鯨」、ナイフ使いの若者「蝉」、そして車を使って標的を仕留める都市伝説的な暗殺者「押し屋(槿=あさがお)」の三つ巴の闘争。ダークで硬質なサスペンスでありながら、テンポの良い文体が疾走感を生み出しています。
続く第2作『マリアビートル』は、東京発盛岡行きの東北新幹線「はやて」という逃げ場のない超高速の密室を舞台に展開します。強運の持ち主と自認しながら常にトラブルを引き寄せる「天道虫(七尾)」、トーマスを愛する殺し屋コンビ「蜜柑と檸檬」、そして狡猾な中学生「王子」が乗り合わせる濃密なサスペンスです。
この『マリアビートル』において特筆すべき考察ポイントは、少年・王子が繰り返し大人たちへ投げかける「なぜ人を殺してはいけないのか?」というドストエフスキー的・実存的な問いかけに対する構造的なアンサーです。伊坂幸太郎はこの根源的な悪意に対し、安易な倫理観ではなく、人間の意志を超えた「偶然性の連鎖と因果応報」という圧倒的なプロットの力をもって冷徹な結末を描き出しました。この知的スリルこそが、本作を単なるアクション小説から傑作サスペンスへと昇華させています。
第3作『AX』では、恐るべき凄腕の殺し屋でありながら家庭内では妻の機嫌を過剰に恐れる兜(かぶと)の哀愁と家族愛を描き、第4作『777』では高級ホテルを舞台に再び七尾が巻き込まれ型の死闘を繰り広げます。前作に登場した殺し屋たちの噂や技術、遺品が次作へと静かに受け継がれていくため、順番を飛ばさずに追うことで感情移入の度合いが跳ね上がります。