ネット上のQ&Aサイト等を見ていると、「宇宙を怖がる自分は精神的に未熟なのではないか」「何かの精神疾患の前兆なのか」と独りで思い悩む相談が後を絶ちません。しかし、認知科学や進化心理学の視点から見れば、この認識は明確な誤解です。
人間には本来、未知の危険や知覚の限界を超える対象に対して恐怖を抱く「生存プログラム」が備わっています。太古の昔から、暗闇、底なしの断崖、巨大な獣を警戒する個体こそが生き残ってきました。宇宙とは、空気も気圧もなく、生物が一瞬で生命活動を停止する「究極の死の世界」です。その空間を見て強い危機感を抱くのは、生物として極めて健全な防衛アラートが機能している証拠に他なりません。
さらに注目すべきは、現役の宇宙飛行士や天文学者でさえも、この恐怖と無縁ではないという事実です。実際に宇宙へ出た宇宙飛行士が体験する心理現象に「オーバービュー・エフェクト(概観効果)」があります。宇宙から地球を見下ろした際、その美しさに魂を揺さぶられると同時に、「薄い大気の皮膜一枚で守られただけの奇跡」「一歩外に出れば即死する絶対的虚無の暗黒」に対する凄まじい畏怖と恐怖を告白する宇宙飛行士は少なくありません。
つまり、宇宙恐怖症の症状は、異常な妄想ではなく「現実の過剰な把握」から生じています。空間の絶対的な冷酷さを鋭敏に直感できる高い感受性と想像力を持っているからこそ、脳が過敏に反応してしまうのです。