ネット上のゴシップまとめサイトなどでは、「宇多田ヒカルは男を見る目がない」「結婚不適合者」といった短絡的なラベルが貼られがちです。しかし、彼女の結婚と離婚のプロセスを単なる恋愛の失敗として片付けるのは、本質を見誤っています。
彼女の家族観を語る上で避けて通れないのが、実母である伝説の歌手・藤圭子の存在です。幼少期から母の極端な精神的浮き沈みや、父・宇多田照實氏との「7回に及ぶ離婚と再婚」という常軌を逸した家庭環境を目撃し続けてきました。
心理学において、幼少期に不安定な家庭環境で育った子どもは、大人になってから「心理的バウンダリー(自立した個人の境界線)」を引くことに強い困難を覚える傾向があります。彼女の1度目の結婚(19歳)は、あまりにも巨大な社会的名声と混沌とした家族関係から抜け出し、自分だけの「絶対的な居場所」を確保しようとする無我夢中の試みでした。
そして2013年の母の急逝という未曾有の悲劇の直後、2度目の結婚(31歳)へと踏み切った背景にも、失われた「温かな家庭」「無邪気な日常」への切望が色濃く影を落としていたことは想像に難くありません。彼女にとって2度の離婚は失敗ではなく、自らの手で親世代の歪んだ家族関係の連鎖を断ち切り、自分自身の足で立つための必然的な脱皮のプロセスだったと言えます。