名古屋の食文化を語る上で欠かせない「味噌カツ」ですが、その起源には諸説存在します。その中で「味噌カツ丼」という丼形態を考案し、定着させたパイオニアこそが味処叶の初代店主・杉本七五郎氏です。終戦直後の屋台街で、客がどて煮(牛すじの八丁味噌煮込み)の鍋に串カツを浸して食べていた光景から着想を得て、「これを最初から丼として完成させられないか」と試行錯誤を重ねた末、昭和24年に誕生しました。
当時の名古屋では、味噌といえば家庭で食べる日常の調味料であり、外食で味噌仕立てのカツを丼にして出す試みは極めて前衛的な挑戦でした。初代が開発した調理法は、揚げたてのカツにタレをサッとかけるのではなく、特製の八丁味噌ダレが煮立つ平鍋の中に揚げたてのとんかつを直接投入して味を染み込ませるという独自の手法です。
関係者の証言や当時の記録を紐解くと、創業当初は「衣がふやけてしまうのではないか」という周囲の懐疑的な声もあったと伝えられています。しかし、衣の配合と揚げ時間を緻密に計算し、煮込んでも剥がれず、タレの旨味を最大限に吸い込む絶妙なバランスを確立しました。この頑なな職人技の継承こそが、70年以上の歳月を経た現在も「元祖」の名に恥じない説得力を持ち続けている根源です。