月は常に同じ面を地球に向けて公転(潮汐固定)しているため、1959年に旧ソ連の無人探査機「ルナ3号」が撮影に成功するまで、人類は月の裏側の姿を一切知ることができませんでした。そのため、月の裏側の地名には冷戦期における宇宙開発競争の歴史が色濃く反映されています。
世界で初めて裏側の写真を撮影したソ連の権利により、裏側の代表的な地形にはロシア・ソ連系の科学者や地名がいち早く名付けられました。
- モスクワの海(Mare Moscoviense):月の裏側にわずかしか存在しない「海」の代表格。ソ連の首都モスクワにちなんで命名され、IAUでも歴史的発見として承認されました。
- ツィオルコフスキー(Tsiolkovskiy):「宇宙旅行の父」と呼ばれるロシアの科学者コンスタンチン・ツィオルコフスキーに由来。暗い玄武岩溶岩で満たされた中央峰を持つ壮大なクレーターです。
- フォン・カルマン(Von Kármán):裏側南部の大衝突盆地「南極エイトケン盆地」内部に位置し、航空宇宙工学者セオドア・フォン・カルマンにちなむ。2019年に中国の探査機「嫦娥4号」が人類史上初となる裏側着陸に成功した地点として有名です。
表側が広大な「海」に覆われているのに対し、裏側はほぼ全域が厚い地殻と無数のクレーターに覆われた高地です。この表裏の非対称性の要因についても、マグマオーシャンの冷却プロセスや巨大天体衝突の痕跡として現在も活発な研究が続けられています。