リング上の勇壮な姿とは裏腹に、その私生活と事業の舞台裏は凄まじい緊張感と葛藤に満ちていた。当時の側近やプロモーターたちが後年明かした証言によれば、彼は常に「観客が何を求め、どうすれば熱狂が生まれるか」を冷徹なまでに計算し尽くすプロデューサーでもあったという。
巨万の富を得て高級外車を乗り回し、ナイトクラブを豪快に借り切る一方で、出自にまつわる苦悩や強烈なプレッシャーから、夜通し眠れぬ日々を過ごすことも珍しくなかった。自らの弱さを決して見せず、孤独を酒と煙草で紛らわせながら、翌朝には「不敗の英雄」としてリングに立ち続ける。激動の時代に生まれた怪物は、自らが作り上げた虚像と実像の狭間で激しく揺れ動いていた。