文豪・深田久弥は名著『日本百名山』の中で、霧ヶ峰・車山について、そのたおやかな山容と遮るもののない大草原の広がりを高く評価した。八ヶ岳中信高原国定公園の中核をなすこの一帯は、火山の噴火と風雪、そしてかつての採草地としての人の営みが気の遠くなるような時間をかけて織り上げた独自の生態系を有している。
本格的な登山装備がなくても手軽に歩ける散策路から、蝶々深山や物見岩を経て湿原へと続く本格的な山岳トレッキングコースまで、懐の深さは随一だ。足元に目を落とせば、ニッコウキスゲのみならず、コバイケイソウの白い穂や、秋を告げるマツムシソウの淡い紫が風に揺れる。足元を痛めない木道整備が進む一方で、植生保護のための電気柵設置など、景観と環境保全の繊細なせめぎ合いが今も現場では続いている。