幾重の大火と戦災を経験した増上寺において、江戸初期の風格をそのまま今に伝える奇跡の建築が「三解脱門(さんげだつもん)」です。元和8年(1622年)に建立されたこの巨大な二重門は、東京都内有数の歴史を誇る木造建築であり、国の重要文化財に指定されています。三解脱とは、仏教における三つの毒(貪り・怒り・愚痴)の煩悩から解き放たれ、極楽浄土へ至る門を意味しています。
大殿の奥へ進むと、静寂に包まれた「徳川将軍家墓所」が佇んでいます。増上寺には、第2代秀忠公、第6代家宣公、第7代家継公、第9代家重公、第12代家慶公、第14代家茂公の計6名の徳川将軍をはじめ、秀忠公の正室・崇源院(お江の方)、家茂公の正室・静寛院宮(皇女和宮)ら一族が手厚く葬られています。旧国宝に指定されていたかつての豪奢な霊廟建築群は戦災で惜しくも焼失しましたが、現在は青銅製の壮厳な扉(旧天神坂門など)で囲まれた特別な聖域として保存され、特別公開日や所定の拝観期間にその歴史の重みを肌で感じることができます。
さらに見落とせないのが、大殿地下に開設されている「宝物展示室」です。ここには、英国ロイヤル・コレクションより長期貸与されている「台徳院殿霊廟模型(第2代秀忠公の霊廟を1/10スケールで精緻に再現した英国博覧会出品作)」が常設展示されています。日光東照宮の原型とも称された幻の江戸初期建築美を立体的に復元した展示や、幕末の絵師・狩野一信が描いた傑作『五百羅漢図』など、学術的・美術的にも一級の資料が凝縮されています。