田中角栄という政治家を語る上で、避けて通れないのが「光」と「影」の強烈なコントラストだ。義理人情を徹底した人心掌握術で頂点へ駆け上がった一方、巨大な金脈政治の闇がやがて自らを呑み込んでいく。
その実像に最も肉薄した金字塔といえば、立花隆による『田中角栄研究 全記録』だろう。1974年、『文藝春秋』に掲載された調査報道は、複雑に入り組んだ幽霊会社やファミリー企業を通じた資金の流れを白日の下に晒し、現職総理の退陣劇の引き金を引いた。緻密な登記簿の追跡と客観的事実の積み重ねは、日本の政治ノンフィクション史における最高峰として今なお色褪せない。
一方で、側近や官僚たちが書き残した回想録には、全く別の顔が浮かび上がる。陳情に訪れた名もなき地方議員の名前を即座に呼び、相手の懐事情まで察して金を包む。官僚の政策ペーパーの数字をすべて暗記し、議論でねじ伏せながらも手柄は部下に譲る。冷徹なマネーの解剖書と、血の通った人間ドラマ。この両極を読み比べることで初めて、怪物の立体像が浮かび上がってくる。