世界的な大ヒットとなった『上を向いて歩こう』。全米ビルボードチャートで1位を獲得し、欧米では「SUKIYAKI」の名で親しまれたこの名曲は、単なる陽気な応援歌ではない。作詞を手がけた永六輔、作曲の中村八大、そして歌い手の坂本九による「六八九トリオ」が生み出したこの旋律には、当時の時代背景と永自身の個人的な挫折が色濃く影を落としていた。
当時、日米安全保障条約改定を巡る学生運動や社会運動の熱気に身を投じていた永は、自らの無力感と失意を抱えて夜の街を彷徨っていた。涙がこぼれ落ちないように空を見上げる――その極めて私的で切実な孤独の独白が、中村八大のモダンなジャズ感覚あふれるメロディと、坂本九の哀愁を帯びた歌声と交差した瞬間、普遍的な名作へと昇華した。昭和歌謡の金字塔は、華々しい成功体験からではなく、若き日の痛切な挫折と涙から産声を上げたのである。