科学が未発達だった古代から中世にかけて、夜空を支配する白銀の月が血のように赤く染まる光景は、人類にとって底知れぬ恐怖の対象でした。そのため、世界各地の文明や宗教において、赤い月は「国家の滅亡」「戦争」「飢饉」「支配者の死」を告げる不吉な凶兆(ポートント)として記録されています。
・古代メソポタミアとバビロニア:天体観測に優れていたバビロニアでは、月食で月が赤く濁る現象を「王に対する神の怒り」と解釈し、身代わりの王を立てて厄災を回避する儀式が行われていました。
・中南米のマヤ・アステカ文明:赤い月は、天のジャガーが月を喰らい尽くそうとしている姿と考えられ、月が消滅して暗黒の世が訪れるのを防ぐために激しい祈祷や生贄が捧げられました。
・キリスト教の聖書(ヨハネの黙示録):新約聖書の終末予言において、「第六の封印が解かれたとき、太陽は毛の粗い布のように黒くなり、月は一面に血のようになった」と記されており、世界の終わりを告げる象徴として定着しました。
・日本の古典と陰陽道:平安時代の貴族社会や『吾妻鏡』などの歴史書においても、月の異変や赤変は「兵乱」や「疫病」の前兆として恐れられ、陰陽師による祈祷が命じられていました。
このように、人類共通の無意識の中に「赤い色=血液・火災・危険」という原始的な警戒シグナルが刷り込まれており、それが数千年にわたる文化的な言い伝えとして現代まで継承されているのです。