着物の「左前」はなぜ死人だけ?歴史的由来と正しい和装マナーの重要なポイントについて、専門知識を詳しくお届けします。

生者が「右前」と定められたことで、逆の「左前」は特別な意味を持つことになった。それが故人に着せる死装束である。

仏教の葬送儀礼において、故人には経帷子と呼ばれる白い衣装を着せる。この際、衿合わせを「左前」にする理由は大きく分けて2つある。ひとつは「逆さごと」という風習だ。死は生の真反対の世界であるという考えから、屏風を逆さに立てる「逆さ屏風」や湯灌の「逆さ水」と同様に、普段とはあえて逆の着せ方をして現世と来世を明確に区別する。

もうひとつの理由は、故人に対する最高級の敬意だ。高貴な人物だけが左前を着ていた古代の記憶や、あの世(極楽浄土)では誰もが最高位の存在として手厚く送られるべきだという願いが込められている。この伝統は現代の冠婚葬祭マナーにおいても脈々と受け継がれており、生の領域と死の領域を分ける境界線となっている。