中島歩のパーソナリティを語る上で欠かせないのが、近代日本文学を代表する作家・国木田独歩の玄孫(げんそん=孫の孫、4代目の子孫)という特異な出自です。独歩の血を引くサラブレッドでありながら、彼はこの事実を自ら看板にして売り出すことはありませんでした。
東京都杉並区で育った中島歩の家族構成は、両親と弟の4人家族。文学者の家系でありながら、家庭内は過度な名跡意識にとらわれることなく、自由で自立的な教育方針が敷かれていたとされます。彼自身、学生時代はバレーボールに打ち込み、日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)食品ビジネス学科を卒業するという、文芸や芸能とは一見かけ離れた堅実な進路を歩んでいました。
大学在学中にモデル活動をスタートし、その後役者の道を志した中島歩は、2013年に美輪明宏演出・主演の舞台『黒蜥蜴』のオーディションに応募。約200人の候補者の中から美輪明宏自身の鋭い眼力によって雨宮潤一役に大抜擢され、本格的な俳優デビューを果たしました。美輪明宏という極めて美意識と規律に厳しい指導者の下で初舞台を踏んだ経験は、彼の表現者としての倫理観や、私生活に甘えない厳格なプロ意識の基礎を決定づけました。
名家の血筋に頼らず、過酷なオーディションと地道な小劇場・単館系映画の現場で実力を磨き上げてきた生い立ちが、周囲に流されない確固たる自我を育んだと言えます。