インド料理と聞くと、宗教的タブーから「牛肉や豚肉を使わず、チキンやマトン、豆類(ダール)を主体とする」というイメージを持つ方が多いはずです。ではなぜ、豚肉とお酢を大胆に使ったインド・ゴア州発祥のポークビンダルーが生まれたのでしょうか。その背景には、16世紀の大航海時代にまで遡る壮大な東西文化の交差があります。
1510年、ポルトガルはインド西海岸の港湾都市ゴアを占領し、アジアにおける貿易とカトリック布教の拠点としました。当時、ポルトガル人船乗りたちが航海中の保存食として持ち込んだのが、豚肉を赤ワインやワインビネガー、ニンニク、塩に漬け込んだ伝統料理「カルネ・デ・ヴィーニャ・ダリョス(Carne de Vinha d'Alhos)」でした。料理名の「Vinha(ワイン・酢)」と「Alhos(ニンニク)」が転訛し、現地で「ビンダルー(Vindaloo)」と呼ばれるようになったと記録されています。
当時、イスラム教徒(豚肉忌避)やヒンドゥー教徒(牛肉忌避)が多く暮らすインド本土とは異なり、ポルトガルの統治下にあったゴアではキリスト教への改宗が進んだため、豚肉の消費が公に受け入れられていました。さらに、ポルトガル人が新大陸(アメリカ大陸)から持ち込んだ唐辛子(チリ)や現地の豊かな熱帯スパイス(黒胡椒、シナモン、クローブ、カルダモン)が、保存食であった肉の酢漬けと見事に融合。こうして、西洋の保存技術と東洋のスパイス文化が結実した本格スパイスカレーとしてのポークビンダルーが誕生したのです。