首班指名における衆議院の優越をめぐっては、SNSやネット掲示板などでいくつかの決定的な誤解が散見されます。制度の本質を理解するために是正すべき3つの盲点を整理します。
誤解1:「衆議院が勝つなら参議院は完全に無駄・カーボンコピーである」
これは最も多い誤解です。首班指名や予算の議決では衆議院に優越がありますが、一般法案の審議において参議院は絶大な拒否権を持っています。衆議院で3分の2の議席を持たない政権にとって、参議院で否決された法案は廃案になるため、参議院は実質的な「法案の生殺与奪権」を握っています。さらに、憲法改正の発議(第96条)においては衆参両院でそれぞれ総議員の3分の2以上の賛成が必要であり、衆議院の優越は一切適用されません。
誤解2:「衆議院が解散している間、日本は無防備になる」
衆議院が解散されると衆議院議員は全員いなくなりますが、参議院は同時に「閉会」となります。しかし、その間に国に重大な緊急事態(大規模災害や安全保障上の危機)が発生した場合、内閣は参議院に対して「緊急集会(憲法第54条第2項)」を求めることができます。参議院単独で暫定的な措置を議決できる仕組みが用意されており、二院制による統治機構のバックアップ機能が担保されています。
誤解3:「三権の長としての参議院議長は衆議院議長より格下である」
三権の長(内閣総理大臣、衆議院議長、参議院議長、最高裁判所長官)のプロトコール(儀礼上の序列)において、参議院議長が衆議院議長の下に置かれることはありません。歴史的に見ても、参議院議長辞任後に公選知事となった土屋義彦氏の例や、参議院の議院運営が内閣の命運を左右してきた数々の歴史が示す通り、院の長としての政治的威厳と重みは衆議院と同等に位置づけられています。