ふたりの運命が交差したのは1959年、大映の正月映画として大ヒットを記録した映画『初春狸御殿』の現場だった。当時、歌舞伎界の名門に生まれ、上方歌舞伎の大名跡である二代目中村鴈治郎の娘として箱入り娘のように育った中村玉緒。対する勝新太郎は、長唄三味線方の家系から銀幕の世界へと飛び出し、若手スターとしての階段を駆け上がっていた最中だった。
撮影現場での勝新太郎は、とにかく規格外だった。カメラが回っていない場所でも玉緒の気を引こうと躍起になり、いたずらを仕掛けては周囲を呆れさせていたという。しかし、良家の令嬢として大切に育まれた玉緒にとって、そんな勝の野性味あふれる振る舞いや、誰に対しても分け隔てなく接する無邪気な人柄は、これまで出会ったことのない新鮮な衝撃として映った。「この人といると、世界が急に賑やかになる」。型破りな求愛に戸惑いながらも、いつしかその魅力に惹きつけられていったのである。