「食べるときは口を閉じなさい」――かつて昭和や平成の食卓で当たり前に飛んでいた注意の言葉が、平成後半から令和にかけて消えつつあるという。社会心理学・家庭環境の専門家は、孤食の増加やスマホを見ながらの「ながら食べ」が日常化したことで、親が子供の咀嚼の様子を観察し、その場で修正する機会が激減したと指摘する。
幼少期における食育・テーブルマナーの指導不足が、咀嚼音を無自覚に垂れ流す大人を生み出す大きな要素であることは疑いようもない。親自身が音を立てて食べる習慣を持っていれば、子供はそれを「正常な食事スタイル」として自然に吸収してしまう。家庭環境が個人の行動パターンを形作る初期の型であることは事実だ。
だが、責任のすべてを「育ち」だけに押し付けるのはあまりにも暴論だ。子供時代にどれほど厳格なマナー教育を受けて育った人物であっても、大人になってから突如としてクチャラーに変貌ケースが近年相次いでいる。そこには、家庭の躾だけでは防ぎきれない身体的・構造的要因が潜んでいる。