工房に入ると、昔ながらの石臼が重厚な音を立てて回転していた。すり身の温度がわずか1度上がるだけで、蒲鉾の命である「足(弾力)」は劇的に変化してしまう。摩擦熱を巧みに逃がしながら、滑らかなペースト状へと仕上げていく工程は、まさに職人の感覚が支配する領域だ。
「機械の数値だけに頼っていては、本当に美味い蒲鉾は作れません。手のひらで触れたときの吸い付き、艶、粘り。五感を研ぎ澄まして魚と対話するんです」
そう語るのは、長年にわたり現場を支えるハトヤ伝統製法継承職人だ。成型から蒸し、焼き上げに至るすべての段階で、熟練の眼光が光る。板付き蒲鉾の美しい曲線美や、揚げ蒲鉾の黄金色の焼き色は、長年の鍛錬を積んだ職人たちだけが到達できる芸術品といっても過言ではない。