山田監督の代名詞といえば、全50作に及ぶ国民的シリーズ『男はつらいよ』である。ギネス世界記録にも認定されたこの不朽の名作は、松竹という映画会社の屋台骨を支え続けただけでなく、日本の「お茶の水の風景」そのものとなった。
主役の車寅次郎を演じた渥美清との信頼関係は、まさに映画史上の奇跡と言ってよい。カメラが回る前、二人は葛飾柴又の路地裏や居酒屋で重ねた雑談から、無数の名場面を生み出した。破天荒でありながらどこか切ない「寅さん」のキャラクターは、渥美清という稀有な俳優の佇まいと、山田監督が描く緻密な脚本が融合した結晶だった。笑って泣ける極上の人情劇は、映画館へ足を運ぶ大衆にとって、何物にも代えがたい救いだったのだ。