蕎麦の味を決定づけるのは、粉の質だけではない。実は「水」こそが隠れた主役だ。
日本急流の一つに数えられる球磨川水系は、極めて質の高い伏流水をこの土地にもたらす。人吉市内の蕎麦処では、毎朝その冷涼な水を使って丁寧に蕎麦を打ち上げる。粉は地元・熊本県産や厳選した国内産のソバの実を石臼で丹念に自家製粉。粗挽きに仕立てることで、噛むほどに甘みが溢れ出す存在感のある麺へと昇華させる。
すっきりと澄んだ冷水で締められた十割そばを、まずはつゆにつけずそのまま手繰る。口内に広がる青々しく芳醇な穀物の香り。機械化の波に抗い、五感を研ぎ澄ませて手作業に固執する職人たちの矜持が、一口ごとに強く伝わってくる。