かつては酒にまつわる逸話や失態も彼のパブリックイメージの一部だった。しかし、自ら酒を断ってからの著作やエッセイには、また新たな鋭利さが加わっている。酒をやめたことで訪れた狂気と静寂、そして人間関係の滑稽さを描いた作品群は、単なる実用的な「断酒記」の枠を完全に踏み外している。
酒を飲まなくなったからといって、人間が清廉潔白になるわけではない。むしろ、シラフになったことで、世間の人間たちがどれほど理不尽な言い訳や欺瞞にまみれて生きているかが、恐ろしいほどの解像度で視界に飛び込んでくる。自身の内面にある執着や醜悪さをも容赦なく晒し上げながら、クスクスとした笑いに昇華させる視線。それは、自己啓発やポジティブ思考が横行する現代に対する、最も強烈なカウンターと言えるかもしれない。