千玄室の功績に異を唱える者は少ない。第二次世界大戦時の特攻隊生き残りという壮絶な原体験から、茶道を通じた世界平和の実現を標榜。国内外の要人に茶を点て、茶道をグローバルな文化遺産へと押し上げた立役者であることは紛れもない事実だ。だが、その圧倒的な名声が強固になればなるほど、組織内における彼の存在は誰も意見具申できない絶対的「聖域」へと変質していった。
京都の裏千家今日庵を取り巻く空気は、かつての求道的な厳格さから、長老の意向を過剰に忖度する硬直した官僚体質へと傾斜していった。茶道三千家(表千家、裏千家、武者小路千家)の中でも最大の規模を誇るがゆえに、動く資金も利権も桁違いに大きい。その求心力が千玄室個人のカリスマ性に過度に依存した結果、近代的なチェック機能が働かない不健全な土壌が数十年にわたって培われてしまったと、古参の門下生は声を潜めて語る。