「10円を入れると『とおえん=遠縁』になり、ご縁が遠のく」という説を耳にしたことがある人も多いだろう。しかし、結論から言えば、この説に宗教学的な根拠は一切存在しない。
日本伝統文化・宗教民俗学の研究によると、こうした金額による縁起担ぎや語呂合わせの多くは、昭和中期以降にメディアや観光地で広まった一種の都市伝説である。歴史を振り返れば、学問の神様として親しまれる菅原道真を祀る天満宮や、泰平の世を築いた徳川家康を祀る日光東照宮などに参拝していた時代、人々が捧げていたのは小銭ではなく「初穂」と呼ばれる米や布だった。銅貨である10円玉が一般に流通し始めたのは戦後のことであり、神仏との距離が硬貨の名称で変わるという考え方は、近代の語呂合わせが生んだ俗信に留まる。