映画のスクリーンで鮮烈な印象を残した多岐川裕美は、テレビドラマの世界でも不朽の功績を残した。代表作として世界中で親しまれているのが、中村吉右衛門主演の本格時代劇『鬼平犯科帳』シリーズである。主人公・長谷川平蔵を陰で支える妻・久栄役として見せたしなやかで凛とした佇まいは、若き日の激しいエロスとはまた異なる、円熟した大人の気品を漂わせていた。
東映や松竹の映画撮影現場で培われた演技の深みは、時代劇特有の所作や言葉遣いにも見事に活かされた。昭和から平成、令和へと移り変わる時代の中で、映画とテレビの境界線を軽やかに飛び越えながら、彼女は常に表現者として第一線で光を放ち続けた。官能と品格という、相反する要素を同居させることができた稀有な名女優である。