遺伝子データの集積は、学術的な好奇心を満たすにとどまらない。最新のバイオテクノロジー産業においては、地域集団ごとに異なる遺伝的背景を理解することが、次世代の「個別化医療(プレシジョン・メディシン)」を実現する鍵となっている。特定薬剤の代謝酵素活性や副作用リスクは、遺伝子のバリエーションによって大きく左右されるためだ。
例えば、抗がん剤や循環器系疾患の治療薬において、欧米系のデータだけに依存した創薬は、アジア人患者に対して最適な効果を発揮しないケースが存在する。バイオテクノロジー産業の最前線では、多角的なゲノムリファレンスを活用することで、すべての人間に対してより安全で効果的な医療を提供する取り組みが急速に広がっている。集団ごとの遺伝的多様性の把握は、差別ではなく差別化された質の高い医療提供のための不可欠なインフラなのだ。