今注目を集めている 名作を生む原点!世界的巨匠たちの処女作に隠された秘密の全貌について、多角的な視点を分かりやすく掲載しています。

日本の出版業界において、ひとつの決定的な転換点となったのが村上春樹の登場だ。神宮球場の外野席でビールを飲みながら「小説が書けるかもしれない」と直感した逸話はあまりに名高い。ジャズバーを経営しながら、深夜の台所で少しずつ書き進められた『風の歌を聴け』は、それまでの日本文学が持っていた重厚な文体とは一線を画していた。

文藝春秋をはじめとする文壇の既存の枠組みに揺らぎを与えたこの処女作は、英語で書いた文章を日本語に翻訳し直すという実験的な試みから生まれた。装飾を削ぎ落とした乾いたリズム、都市生活者の孤独を軽やかに描く視線。後に世界的な文学者となる巨匠の原型は、すでにこのわずか100ページあまりの物語の中に、純度高く封じ込められていたのである。