敷地内で圧倒的な存在感を放つのが、黒塗りの壁と重厚な茅葺き屋根が特徴の「本陣」だ。警護の武士が詰めていたとされるこの建物は、現代においても当時の構造をほぼそのまま留めている。
豪雪地帯である秋田の冬は苛烈だ。数メートルに及ぶ積雪からこの貴重な木造建築群を守るため、地元職人たちによる伝統的な修繕作業が毎年欠かさず行われている。茅(かや)の葺き替えには高度な技術が必要とされ、後継者不足が全国的な課題となる中でも、鶴の湯では地域の若手職人への技術継承が積極的に進められてきた。
夜になると、囲炉裏の火が部屋全体をほの暗く照らし出し、薪の燃える匂いが漂う。文明の利器に頼らない灯りと暖は、他では決して味わえない深い安らぎを宿泊客にもたらしている。